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「損失幸福余命」という新たな指標の開発と福島災害後のリスク比較への適用 New “loss of happy life expectancy” indicator and its use in risk comparison after Fukushima disaster

著者【筆頭著者、連絡・責任著者】
村上道夫1
【共同著者】
坪倉正治2、小野恭子3、前田正治4
1福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座、2 南相馬市立総合病院、3 産業技術総合研究所、4 福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座
掲載「Science of the Total Environment」(2017)
関連リンクhttp://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969717324816

異なるリスクの比較は、意思決定をするために重要な方法の一つです。17世紀中盤にリスクとリスク比較という概念が誕生して以降、損失余命などの様々なリスク指標が提案されてきました。現在、多くの国が短寿命や低い所得から「大脱出(アンガス・ディートン著「大脱出」による)」を成し遂げつつある状況において、死亡率のような客観的なリスクを最小化しつつ、主観的な幸福度を高めるような社会づくりの重要性が世界的な共通認識となっています。

本調査では、健康を増進し幸福度を高める社会づくりに向けて、「損失幸福余命」という新たなリスク指標を開発しました(ある時点での平均的な残りの人生の長さを「余命」と呼ぶのに対し、「幸福余命」は、幸福な気分で生きることができる平均的な残りの人生の長さを指します。死亡率の上昇に関するリスク下での余命の短縮を「損失余命」と呼ぶのに対し、死亡率の上昇のみならず普段の幸福度の低下もリスクをもたらす事象と位置付け、そのようなリスク下での幸福余命の短縮を「損失幸福余命」と定義しました)。

本研究では、リスクは死亡や障害の増加だけでなく、日々の幸福の低下も含むと定義し、我々は一生涯で得られる幸福を最大にすることを目標とします。本指標は、生命表に関する客観的なデータと「昨日、あなたは幸せを感じましたか?」という情動に関する主観的幸福度の質問から計算され、四則計算を可能とします(幸福度に関する研究は、経済学、心理学、社会科学、医学など、様々な分野で進められています。Nettle (2005)によれば、幸福は「情動(瞬間的な感情)」「認識(人生に対する包括的評価、生活に対する満足)」「Eudaimonia(自分の可能性を満足させるような人生の質)」の3つに分けられ、主観的幸福度として測定可能なのは「情動」と「認識」であるとしています)。

本指標を用いて福島第一原子力発電所事故後の心理的苦痛の増加と放射線被ばくによるリスクを比較したところ、心理的苦痛によるリスクを過小評価、放射線被ばくによるリスクを過大評価しても、心理的苦痛のリスクの方が放射線被ばくによるリスクよりもおよそ1-2桁以上高いという結果になりました。本調査により、今後、心理的苦痛のリスクへの対策が極めて重要であることが明確に示されました。