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がん進展モデルを用いた小児・青少年甲状腺がん期待数のシミュレーション研究:福島県県民健康調査甲状腺先行検査への応用 Simulation of expected childhood and adolescent thyroid cancer cases in Japan using a cancer-progression model based on the National Cancer Registry: Application to the first-round thyroid examination of the Fukushima Health Management Survey

著者【筆頭著者、連絡・責任著者】
高橋秀人1,2
【共同著者】
高橋邦彦3、志村浩己4、安村誠司5,6、鈴木悟6、大津留晶7
緑川早苗7、大平哲也8、大戸斉6、山下俊一6,9、神谷研二6,10
1 国立保健医療科学院、2 福島県立医科大学、3 名古屋大学大学院医学系研究科生物統計学分野、4 福島県立医科大学医学部臨床検査医学講座、5 福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座、6 福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター、7 福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座、8 福島県立医科大学医学部疫学講座、9 長崎大学原研医療・放射線災害医療学研究分野、10 広島大学原爆放射線医科学研究所
掲載「Medicine」(2017)
関連リンクhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29310337

東京電力(株)福島第一原子力発電所事故後、県民に寄り添い、県民の健康を見守るために「県民健康調査」が実施されています。甲状腺検査はコホート研究デザイン(個人を何年間も見守り続ける調査)で、初めの3年間がベースライン調査(先行検査)、次の2年間が2巡目調査(本格検査1回目)、その次の2年間が3巡目調査(本格検査2回目)のように調査(甲状腺検査)が続いています(20歳以上は5歳刻みの節目検診)。

先行検査の結果116人(男性39人女性77人)が甲状腺がんと診断されました。この数は国立がん研究センターの発表している甲状腺がん罹患率と比較すると、非常に高い数値のように見えます。
この問題に対し、①有病割合と罹患率と指標が異なっている、②福島の甲状腺検査は小児青少年への悉皆調査、国立がん研究センターの罹患率は主に人間ドック等での発見率、③検査感度が不明、ということから、福島の甲状腺検査先行検査発見数とがん罹患統計の報告数は単純に直接比較することはできません。本研究では①、②については甲状腺がんの自然史モデル、③についてはシミュレーションを用いて、放射線被ばくのない状況において、小児期に甲状腺がん検査を実施した場合に、どの程度の人が甲状腺がんと診断されるのか(有病割合)をがん罹患統計から推定するモデルを構築しました。
福島の実際の観測者数(男性39人、女性77人)は、複数の検査感度値において、放射線の影響のない仮定で構築されたモデルから予測された観測数の95%信頼区間に含まれており、実際に観測され得る数であることが示されました(潜伏期間: 男性34年、女性30年)。モデルによる推定、潜在時間推定値の安定性など、解釈には注意が必要ですが、対象者数、受診割合、検査感度を設定することにより、がん罹患統計に基づく甲状腺検査期待発見者数の推定値を示すことが可能であることを示した研究です。

東京電力(株)福島第一原子力発電所事故後、先行検査で甲状腺がんが多く診断され、これは放射線の影響ではないかという社会的関心に対し、放射線の影響がない場合でも、この人数は診断され得ることを示しました。また、甲状腺がんが体内に出現し検出可能になってから臨床症状により診断されるまでの期間(潜伏期間)について、男性34年、女性30年という値を初めて推定しました。