東京電力福島第一原子力発電所事故後の心理的苦痛は避難した方より帰還した方のほうが低い Lower Psychological Distress Levels among Returnees Compared with Evacuees after the Fukushima Nuclear Accident

著者【筆頭著者、連絡・責任著者】
福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座:村上道夫
【共同著者】
福島県立医科大学医学部:竹林由武
福島県立医科大学医学部/南相馬市立総合病院:坪倉正治
掲載「The Tohoku Journal of Experimental Medicine」(2019)

心理的苦痛は東京電力福島第一原子力発電所事故後に生じた大きなリスクです。避難指示の解除に伴って、事故による影響を受けた方々が帰還をし始めている一方で、心理的苦痛の現況についてはいまだ報告されていませんでした。そこで、K6の指標を用いて、帰還した方と避難した方の両方について、心理的苦痛のレベルを報告します。2018年1月、質問票を9市町村の避難指示区域で住民基本台帳に登録された20歳から79歳までの2000人を対象に無作為に配布しました。9市町村は住民が現在、帰還を進めている区域です。参加者の総数は625名でした。帰還した方は、避難した方よりも心的苦痛の状況が有意に良好でした。年齢、性別、年収を共変量として、ロジスティック回帰分析によって推定された帰還した方(比較対象:避難した方)の多変量調整済みオッズ比(95%信頼区間)は、K6で10点以上について0.525 (0.325-0.846)、13点以上で0.444 (0.216-0.911)でした。日本全体の年齢と性別分布に調整したとき、帰還した方のうち、K6で10以上の割合は、16.2%であり、20歳から79歳までの日本全体の値(10.3%)より高かったです。避難した方の心理的苦痛が解決するべき喫緊の課題であると同時に、帰還した方についても社会的支援が必要であることが分かりました。帰還した方の長期的なフォローアップ、帰還と心理的苦痛の因果、帰還した方と避難した方におけるその要因についての調査が、効果的な対策の実施に向けて必要です。