東日本大震災後の福島県川内村住民の生活習慣と精神健康度評価:福島県県民健康調査 Psychological distress of residents in Kawauchi village, Fukushima Prefecture after the accident at Fukushima Daiichi Nuclear Power Station: the Fukushima Health Management Survey

著者【筆頭著者、連絡・責任著者】
長崎大学医学部保健学科:吉田浩二
【共同著者】
福島県立医科大学:
 大津留晶、前田正治、矢部博興、安井清孝、熊谷敦史、山下俊一
長崎大学原爆後障害医療研究所:
 高村昇、林田直美、中島香菜美、折田真紀子、工藤崇、新川哲子、浦田秀子
掲載「PeerJ」 (2016)

【背景】
福島県川内村住民は、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、避難生活を余儀なくされていましたが、現在では村への帰還が進められています。この研究は、帰村促進に向けた健康教育・健康相談などの支援活動に役立てるため、住民の生活習慣とこころの健康との関係の評価を行うことを目的としました。

【方法】
対象者は、30歳以上の川内村住民とし、福島県が実施する県民健康調査の調査票を回収できたものを用いました。2012年1月1日~2012年10月31日の期間のデータを使用しました。データ使用は、平成23年度県民健康調査に含まれる、「生活習慣病に関する項目」、「こころの健康度(K6、PCLなど)」とし、分析を行いました。K6は、精神疾患のスクリーニングに使用される尺度であり、その得点が高いほど精神健康度が不良であることを評価するものです。13点以上が、重篤な精神疾患のカットオフ値とされています。

【結果】
対象者は、川内村住民542名(男性264名、女性278名)、平均年齢は58.42±14.90歳でした。生活習慣病の罹患状況は、高血圧が約5割、高脂血症が約3割でした。生活習慣では、自身の睡眠への不満が約6割、活動低下を感じる住民が約7割でした。542名中474名の住民(87.5%)がK6得点13点未満であり、68名(12.6%)が13点以上でした。K6得点がカットオフ値以上のである住民のうち高齢者(65歳以上)の割合は、K6得点がカットオフ値未満の住民の割合より高かったです(44.1% 対 31.0%、p < 0.05)。さらに、カットオフ値以上の住民のうち食欲低下や精神疾患を示した住民の割合は、カットオフ値未満の住民の割合より高かったです(それぞれ、p < 0.001及びp < 0.05)。また、高齢者群(≧65歳)は、成年者群(30-64歳)に比べて、K6得点高い者(≧13点)とPCL得点の高い者(≧44点)の割合が高かったです。さらに、関連性を調査した結果、K6得点が高い群と、活動低下や低い睡眠満足感とで独立した関連が認められました。

【結論】
原発事故の影響として、震災前に避難区域に居住していた住民において、精神的苦痛の高いリスク状況、すなわちうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような深刻な精神健康上の問題があることを示唆しています。特に被災経験や避難による生活環境の変化が、高齢者への精神的ストレスをもたらしたと考えられます。福島の復興のために、放射線の健康へのリスクに関する情報伝達のみならず、身体的及び運動習慣や睡眠といった心身のサポートを継続していく必要があります。