血算ってなんだろう?

血算とは

県民健康調査の血液検査の項目の一つに血算があります。血算とは全血球計算の略です。この検査では、血液中の細胞成分である赤血球、白血球および血小板の数や大きさを測定し、さらにヘモグロビン濃度 (Hb)、ヘマトクリット値 (Ht) などの測定を行います。Hbは、赤血球の内部で鉄(ヘム)とタンパク質(グロビン)が結合した赤色素タンパク質のことで、Htは、血液中に占める赤血球の全容積の割合を示す数値です。

血液の細胞成分である赤血球、白血球、血小板は骨の中の骨髄という造血組織にある造血幹細胞が起源となり、分化して成熟したそれぞれの血球成分が末梢血に出て全身を循環します(図1)。白血球は形態や機能の違いによってさらに分類され(分画と言います)、その中で主なものが好中球とリンパ球です。これらの他に好酸球、好塩基球、単球がありますが、生体の生理的な反応や疾病によって白血球の数だけでなくその分画にも特徴が見られます。たとえば、細菌感染による発熱時には、白血球数は増加しその分画では好中球が優位となりますが、ウイルス感染では一時的に白血球が減少することが多いです。また、喘息や蕁麻疹などのアレルギー反応の時には好酸球が増加します。


図1:造血幹細胞からの血液分化

全身の放射線被ばく時に最も影響を受けやすい血液細胞は、骨髄の造血幹細胞ですが、成熟したリンパ球も放射線に感受性が高く、1Gy以上の高線量被ばくが疑われる時にはリンパ球数の減少の推移を観察することでその被ばく線量を推計することが可能です。
県民健康調査(2011年6月から2012年12月までの解析)では、避難地区13市町村において、白血球数と白血球分画に放射線被ばくとの関連は見られませんでした※1,2

参考文献等
1 Sakai A, et al. J Epidemiology 2015
2 Sakai A, et al. J Epidemiology 2022

貧血とは

貧血とは、血液中の赤血球の数や、その中で酸素を運ぶ役割のヘモグロビンの濃度が低くなった状態を指します。そのため立ちくらみ、息切れ、めまい、ふらつき、頭痛、胸の痛みなどの症状が起こります。貧血になる原因は、過剰な出血、赤血球の材料不足、血液を作る機能の病気、赤血球を破壊する病気などがあります。頻度の高い原因としては、ヘモグロビンの材料となる鉄不足が原因となる鉄欠乏性貧血があります。他にもビタミンB12や葉酸の不足、慢性腎機能障害や甲状腺機能の低下した状態なども貧血の原因となります。

貧血の診断に一般的に用いられているのは、血液中のヘモグロビン濃度(Hb)です。県民健康調査では成人の基準値を、男性ではHb 13.1-17.9 g/dL、女性ではHb 12.1-15.9 g/dLとしており、その下限値未満の場合を貧血としています。また、鉄欠乏性貧血では赤血球の大きさが小さくなり、逆にビタミンB12や葉酸の不足による貧血では赤血球が大きくなる特徴があるため、それらを鑑別するために平均赤血球容積 (MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量 (MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度 (MCHC) を計算することが臨床の現場では一般的です。

県民健康調査では、避難地区の20〜44歳の女性において東日本大震災の翌年に貧血の人の割合が増加しましたが、その後はその割合が減少しています(図2)※3。また、貧血を認めた女性には、BMI (body mass index) が23 kg/m2未満であることや非喫煙、非飲酒であるという特徴がありました。


図2:東日本大震災後の避難地区の女性における貧血の割合

参考文献等
3 Yamamoto K, et al.Sci Rep 2022

多血症とは

多血症は貧血とは逆に血が多い状態で、血液中のヘモグロビン濃度 (Hb)、ヘマトクリット値 (Ht) ないし赤血球数 (RBC) が増加しています。県民健康調査では、成人男性でRBC,4.00-5.79 106/μL; Hb, 13.1-17.9 g/dL; Ht, 38.0-54.9%、成人女性で、RBC, 3.70-5.49 106/μL; Hb, 12.1-15.9 g/dL; Ht, 33.0-47.9%の基準値の上限値を1つでも超えた場合を多血症と定義しています。

症状は、多くは無症状ですがヘモグロビン濃度(Hb)値が20 g/dLを超えるような場合は、血液の粘度が増した状態になるため頭重感や赤ら顔が生じることがあります。多血症の分類を表1に示しますが、通常の健診で認められるものの多くは相対的多血症です。その中でも、ストレス性多血症は実際には明確な原因は分かっておらず、血管が収縮し見かけ上の循環血液量の減少した生理的状況であること意味します。その代表的なものが高血圧です。また、多血症の最も多い原因は喫煙ですが、喫煙時に発生する一酸化炭素は、酸素と比べ200倍ヘモグロビンと結びつきやすいため、生体が酸素不足に陥り、それを補おうとして赤血球が増加します。他に、肥満は、睡眠時無呼吸症候群の原因になりますが、無呼吸状態が続くと酸素を補おうとして赤血球が増加します。したがって、多血症の多くは、高血圧や肥満などの生活習慣病に付随した所見であると考えられます。

表1:多血症の分類

実際、1995年の阪神淡路大震災では、ヘマトクリット値(Ht)の上昇した被災者に心臓血管系の病気の発症が多かったという報告があります。県民健康調査では、避難生活が肥満や喫煙の有無と関係なく多血症の原因となっていることがわかりました。さらに多血症は震災の4年後も依然として避難生活をしている住民の方に多いということが確認されています※4

参考文献等

4 Sakai A, et al. Preventive Medicine Reports 2017

2023年3月16日

坂井 晃
福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター 健康診査・健康増進室 副室長
放射線生命科学講座 主任教授

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