笑いは心身の健康によいのでしょうか?

笑いとは?笑いと健康の歴史

昔から「笑う門には福来る」といいますように、笑いは心身の健康によいことが経験的に知られてきました。

一方、笑いと健康との関連が学術的に報告されるようになったのはそれほど昔の話ではありません。1970年台に米国のジャーナリストであるノーマン・カズンズ氏が自らの難病を笑いで克服した報告を発表して以来、笑いが痛みを減らし、ストレスを解消し、免疫力を上げることなど数多くの健康効果が報告されてきました。

最近では、笑うことで寿命が延びる可能性や普段からよく笑う人ほど認知症や要介護になりにくいことなども報告されています。笑いは「ハッハッハッハッ」という特徴的な笑い声と笑い顔の2つで構成されている行動であり、感情ではありません。ですので、意識的に増やすことができます。

参考文献等
  • 「1日1回!大笑いの健康医学」(さくら舎)大平哲也著

震災後に笑いを維持する要因は?

県民健康調査では、避難区域等住民の方を対象として「日常生活における笑いの頻度」を調査しました。

その結果、震災後に避難区域等住民の方では「ほぼ毎日声を出して笑う」人は約27%であったのに対し、「週1回も声を出して笑ってない」人は約32%であり、他の地域と比べて笑いが極端に少なくなっていました。

一方、笑いが維持されている人の特徴を調べてみると、家族との別離がなかった人、震災後に家族が増えた人、及び家族が多ければ多い人ほど笑いが維持されることがわかりました。また、普段の生活の中で「ほぼ毎日運動を行っている」こと(図1)や「地域のレクリエーションによく参加する」こと(図2)が毎日声を出して笑うことに繋がることがわかりました。
したがって、避難という困難な状況にあっても、定期的に運動をする習慣や地域のコミュニケーションを維持することが重要と考えられました。


図1:定期的な運動習慣と笑いの頻度との関連※1
(運動習慣が多い人ほど毎日笑っていることがわかりました)


図2:地域でのレクリエーションへの参加と笑いの頻度との関連※1
(地域のイベントに参加している人ほど毎日笑っていることがわかりました)

参考文献等

1 Hirosaki M, Ohira T, et al. Qual Life Res, 2018, 27(3):639-650.

笑いと生活習慣病

笑うことで血糖値が下がり、血圧の上昇を抑制することが報告されています。

県民健康調査において笑いの頻度と生活習慣病との関連を検討した結果、避難している人では笑いの頻度が少なくなっていましたが、毎日笑う人は、笑わない人に比べて、震災後の高血圧、糖尿病、心臓病の割合が男性で低く、高血圧、脂質異常の割合が女性で低かったことが明らかになりました。
また、この関連は、特に男性の避難者にて強くなっていました。避難区域等男性では、毎日笑う人はあまり笑わない人に比べて、高血圧のリスクが15%、糖尿病のリスクが23%、及び心臓病のリスクが21%低下していました(図3)。


図3:笑いの頻度と生活習慣病との関連※2
(男性では毎日笑う人はそうでない人に比べて生活習慣病を有するリスクが低いことがわかりました)

参考文献等

2 Eguchi E, Ohira T, et al. Int J Environ Res Public Health, 2021, 18(23)

笑いを増やすために(笑いヨガの紹介)

日常生活において笑いを増やす方法として、人付き合いを増やすことが大事です。普段どのような時に笑っているかを調べた調査では、家族や友人と一緒にいるときに笑う機会が最も多くなっていました。また、1日の会話時間が長い人ほど、よく笑っていることも報告されています。

しかしながら、普段なかなか笑う機会が少ない人もいらっしゃると思います。笑いは感情ではなく行動ですので、自分の意思で増やすことができます。
そこでお勧めするのが「笑いヨガ」です。笑いヨガは1995年にインドの医師が開発した健康法で、笑いの体操とヨガの呼吸法を合わせたものです。

放射線医学県民健康管理センターでは、避難区域の健康教室に出向き、地域住民の健康法の一つとして笑いヨガを活用していただいています。これまで、笑いヨガを定期的に行うことが、糖尿病患者さんの血糖値のコントロールをよくすること※3やメタボリックシンドロームの因子を持つ人の体重を減らし、生活の質を高めること※4が報告されています。
また、本学健康増進センターでは、県からの委託により、笑いヨガの動画を配信しています。笑いヨガに興味がある方は是非こちらからご覧ください。

参考文献等

3 Hirosaki M, Ohira T, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2023;14:1148468.
4 Funakubo N, Eguchi E, et al. BMC Geriatr. 2022;22(1):361.

2024年2月14日

大平 哲也
福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター 健康診査・健康増進室 専門委員
疫学講座 主任教授

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