肝機能障害について知ろう

肝機能障害とは

肝機能障害をご存じですか。ここでは、肝機能障害についてお伝えしていきます。

肝臓はお腹の右上で横隔膜の下、胃の隣にあります。成人での重量は1200~1500gであり、人体では最大の臓器です。肝臓には、食事で吸収した栄養から人体に必要なものを作ったり、人体に不要なものを分解したりする働きがあります。

肝臓の細胞が壊れると肝細胞内に含まれる酵素(肝酵素:ASTやALT)が血液中に出てきます。また、脂肪の消化・吸収を助ける胆汁が流れる胆道に関連した酵素(胆道系酵素:ALPやγ-GT)も肝機能障害の指標となります。

人体イラスト

血液中の肝酵素や胆道系酵素の数値は、通常では一定の範囲におさまっていますが、肝機能障害では基準範囲を超えて上昇します。また、肝機能障害が進行すると、血液中の肝臓の働きを示す指標(アルブミンやビリルビンなど)も異常となります。
肝機能障害では自覚症状がないことが多く、血液検査で初めて肝機能障害が分かる場合がほとんどです。血液中の肝酵素や胆道系酵素の数値は肝機能障害の程度を反映するため、数値が高いほど肝臓の障害が大きいことを意味します。肝機能障害を認めた場合には、障害の程度や原因によっては薬物治療が必要な場合もあります。一方で肝機能障害を放置した場合には、肝硬変や肝臓がんなど生命に関わる重大な病気に進行する可能性もあります。 ご自身の肝臓の状態を知るために、ぜひ健診を受けてください。
そして、肝機能障害が見つかった場合には放置せず、必ず医療機関を受診するようお願いします。

肝機能障害はどうしてなるの?症状や合併症はなにかあるの?

肝機能障害といっても原因は様々です。代表的な原因には、①肝炎ウイルス ②薬物・アルコール ③脂肪肝などがあります。肝炎ウイルスにはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど血液や体液を介して感染するものやA型肝炎ウイルスやE型肝炎ウイルスなど食事の摂取により感染するものがあります。このうちC型肝炎ウイルスは肝臓がんの一番の原因です。現在は、飲み薬の治療により9割以上でウイルス排除が可能になりました。一方、お薬や健康食品でも肝機能障害がおきることがあります。医療機関からの処方薬に比べ、市販薬や健康食品では肝機能障害の発見が遅れることがあり注意が必要です。また、最近ではアルコールや脂肪肝が原因となる肝臓がんが増加しています。過度の飲酒の継続や太りすぎによる脂肪肝を放置すると肝臓がんまで進行する場合があります。

肝機能障害

東日本大震災後の県民健康調査の結果では、肝機能障害の割合が震災前16.4%から震災後19.2%に増加しました(図)※1。これは、避難生活による食事や飲酒、運動などの生活習慣の変化が主な原因と考えられています。肝機能障害は無症状のことが多く、肝硬変や肝臓がんでは病気が進行しても初期の段階ではほとんど気づきません。黄疸やむくみなどは肝硬変が進んでから出てくる症状です。肝硬変になると食道や胃の静脈が拡張し、破裂すると吐血することもあります。沈黙の臓器といわれる肝臓は、肝機能障害が指摘された時点で、早期に医療機関を受診することが重要です。

県民健康調査の結果

図:震災前後での肝機能障害の割合(Takahashi A,et al.J Epidemiology 2017より)

※1 Takahashi A,et al.J Epidemiology 2017

肝機能障害の予防法は?治療法はあるの?

肝機能障害の予防法と治療法は原因によって対応が変わります。

  • B型肝炎ウイルスの感染予防にはワクチンが有効です。B型肝炎ウイルスに感染している方でも肝炎を発症していない場合には、経過観察のみで治療を必要としない場合もあります。
  • C型肝炎ウイルス感染では、飲み薬でのウイルス治療が勧められます。
  • E型肝炎は生肉の摂取が原因ですので、食材により十分な加熱処理が重要です。

一方、薬物も肝機能障害の原因となるため、薬剤や健康食品を服用中の方は、かかりつけ医や健康診断で肝機能障害がないことの確認が必要です。
アルコールによる肝機能障害の場合には、飲酒を控えることが必要になります。また、飲酒していると薬物による肝障害が生じやすくなりますので、持病でお薬を内服中の方はとくに飲酒に注意して下さい。肥満の方は脂肪肝を合併していることも多いです。肥満の原因となる生活習慣を改善し減量することが脂肪肝治療の原則となりますが、糖尿病や脂質異常症など合併している生活習慣病の治療で肝機能障害もよくなる場合があります。脂肪肝では、肝臓の状態ばかりでなく脳血管疾患や肝臓以外のがんの発症にも注意が必要となります。
肝機能障害の原因は様々ですので、医療機関を受診し原因を特定することが予防と治療の第一歩となることを忘れないでください。肝臓は皆さんの健康や長寿の肝心かなめですので、定期健診を通じて肝臓が元気であることの確認をお願いします。

2023年2月22日

高橋 敦史
福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター 健康診査・健康増進室 副室長
消化器内科学講座 准教授

肝機能障害になってしまったらどうするのか?

健康診断の血液検査で肝機能障害を指摘された場合には、かかりつけ医を受診してください。かかりつけ医がない場合は、内科や消化器内科を受診してください。

肝機能障害には肝酵素や黄疸が急激に悪化する急性の経過をたどるもの(急性肝炎)と、肝酵素の上昇が比較的軽度でゆっくりと病態が進行する慢性の経過をたどるもの(慢性肝臓病)があります。
肝機能障害の原因は様々で、原因を特定することが重要であり、医療機関では原因の特定と肝機能障害の程度が評価されます。肥満や飲酒による脂肪肝などが原因の場合は、生活習慣を改善するよう指導されます。また、B型肝炎やC型肝炎であれば抗ウイルス治療が検討されます。
一方、原因にかかわらず肝硬変など進行した状態の場合には、合併症の評価や治療が必要となります。

もし、ご家族が肝機能障害になられている場合には、肝機能障害の原因や状態を患者さんと一緒に理解してください。そして、生活習慣が原因であればその改善のサポートを、また内服治療が必要な肝機能障害であれば患者さんがきちんとお薬を飲めているか気にかけてください。

皆さん、「奈良宣言2023」をご存じでしょうか。日本肝臓学会では慢性肝臓病の予防を目的に、肝酵素のALTが30U/Lを超えたら医療機関を受診するよう発信しています。
肝機能障害になってしまっても医療機関を受診すれば心配はいりません。ぜひ、受診してください。

出典:日本肝臓学会, 2023 (https://www.jsh.or.jp/medical/nara_sengen/)

2023年11月30日

高橋 敦史
福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター 健康診査・健康増進室 副室長
消化器内科学講座 准教授

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