腎機能障害について知ろう

腎機能障害とは

腎臓は背中側の腰骨の上のあたりに左右1個ずつあって、握りこぶしくらいの大きさ(約150g)で、そら豆のような形をしています。腎臓の主な働きは尿を作ることです。われわれの1日の尿量はだいたい1.5リットルくらいですが、なんと腎臓の中では1日に約150リットルの尿が作られています。腎臓の糸球体(しきゅうたい)という部位でろ過をして、1分あたり約100ミリリットルの尿を作っていますが(これを糸球体ろ過量といいます)、このうち体に必要な水分、ナトリウムなどは99%が再度体内に取り込まれて(再吸収)、不要なものだけを尿として排出しています。その時の体の状況に応じて再吸収するものや量を調節して、腎臓は体内の環境を最適な状態に整えています。

つまり、「体内に蓄積する老廃物を排泄する」だけでなく、「体内の水分量やナトリウム、電解質、酸・アルカリのバランスを一定に保つ」といった腎臓の様々な働きによってわれわれの体は常に生きていくためにベストな状態に維持されています。

では腎機能障害(=腎臓の働きが低下する)が生じるとどうなってしまうのでしょうか。
腎臓の働きは先ほどの糸球体ろ過量で表され、正常だとだいたい1分あたり100ミリリットルです。この糸球体ろ過量が低下して、10ミリリットル/分未満になってくると、体内には処理しきれない様々な老廃物がたまってしまい、体内の環境を維持できなくなり、食欲不振、全身倦怠感といったいわゆる尿毒症の症状が出てきます。腎機能障害は進行すると元には戻らず、人工透析や腎移植が必要になります。

図:腎糸球体ろ過量が正常の10%未満になると人工透析や移植が必要

腎機能障害はどうしてなるのか? 症状は? 合併症は?

腎機能障害の原因はさまざまです。

透析が必要なほどではない軽度の腎機能障害でも以下に示すさまざまな病気を引き起こすことがわかり、糸球体ろ過量が60ミリリットル/分未満の状態が3ヶ月以上続いた場合、慢性腎臓病(CKD)と診断されます。CKDが進行すると人工透析が必要になりますが、2021年末時点で、わが国の透析患者数は約35万人で、原因の約6割が糖尿病や高血圧などの生活習慣病です※1。血糖値や血圧が高い状態が続くと、腎臓の糸球体が障害され、糸球体ろ過量が低下して腎機能障害が進んでいきます。

腎機能障害がかなり進行して、糸球体ろ過量が1分あたり30ミリリットルを切ったあたりから、むくみや、夜間頻尿、血圧上昇、貧血といった症状が出現してきますが、初期の腎機能障害では、目に見える異常や自覚症状はほとんどありません。しかし、CKDと診断される糸球体ろ過量60ミリリットル/分未満になってくると心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患が起こる危険が高くなることがわかっています。さらに近年、骨折、認知症やサルコペニア※2・フレイル※3などを起こしやすくすることもわかってきています。

もちろん糖尿病や高血圧になってすぐに腎臓が悪くなるわけではありませんし、早期であれば腎機能障害の発症や進行を予防できることがわかっています。腎機能障害がないか、腎機能障害を引き起こす糖尿病や高血圧がないかどうかについて定期健診にてきちんと確認することがとても重要です。

参考文献等
1 わが国の慢性透析療法の現況 2021年12月31日現在、日本透析医学会
2 筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態
3 加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康に影響を及ぼしやすくなった状態(介護が必要になる前段階)

腎機能障害の予防法や治療法等

腎機能障害は進行してしまうともとに戻りませんが、発症や進行を予防することは可能です。腎機能障害の発症、進行には肥満、喫煙、塩分過剰摂取や運動不足といった生活習慣が大きく関わっていることが以前より指摘されています。

県民健康調査の結果からも、震災後の避難がCKD発症のリスクと関連していたことが示されており※4、避難に伴う生活環境や食生活の変化が関連していると考えられます。実際、肥満の合併があった人、過去に喫煙のあった人ではCKD発症リスクが上昇していました(図)※5。また、野菜類を多く摂る食事パターンの人では腎機能障害発症リスクが低下する傾向であり、一方、ジュース類を多く摂る人では腎機能障害のリスクが高くなることが示されました※6


図:新たに腎機能異常になった人の特徴

このようにCKD発症や腎機能障害を予防するためには、肥満の是正、禁煙、減塩、適度な運動などの良い生活習慣を心がけることが重要です。

腎機能障害はかなり進行するまで症状がなく、気がつかれないことも多いのですが、一方で進行してしまうともとに戻らない障害となって我々の健康を大きく損ねる病気です。早期であれば、治すことや進行を防ぐことができる病気ですので、より良い生活習慣を心がけるとともに早期発見がとても重要です。ぜひ、定期的に健診を受けましょう。

参考文献等
4 Hayashi Y et al. Clin Exp Nephrol 2017
5 県民健康調査「健康診査」対象市町村の7 年間での生活習慣病等に関する要因の検討結果報告書(全体版)
6 Ma E et al. Nutrients 2021

2023年5月10日

田中 健一
福島県立医科大学 腎臓高血圧内科学講座 准教授

腎機能障害となってしまったら

腎臓の働きは糸球体(しきゅうたい)ろ過量で表され、正常だとだいたい1分あたり100ミリリットルです。この糸球体ろ過量が低下して60ミリリットル/分未満の状態が3ヶ月以上続いた場合、慢性腎臓病(CKD)と診断されます。
糸球体ろ過量がさらに低下して10ミリリットル/分未満になってくると、人工透析や腎移植が必要になります。腎移植を受けると、定期検査や拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤の服用が必要になりますが、多くの場合、健常者とほとんど変わらない生活を送ることができます。
しかしドナー(臓器提供者)不足のため日本では移植を受けられる人は少なく、腎不全患者さんの多くは血液透析を受けています。血液透析の場合だと週3回、1回あたり4〜5時間の通院治療が必要となり、食事・飲水も制限されます。特にご高齢の患者さんでは通院や食事療法に関して家族のサポートが必要となり、家族へ与える影響も少なくありません。

腎機能障害の進行を防ぐためには、原因となっている病気(原疾患)に対する治療と、腎臓に負担をかけるもの(危険因子)に対する治療の両方が必要になってきます。一般的な腎臓に対する危険因子としては、糖尿病、高血圧、脂質異常、高尿酸血症、喫煙、肥満や塩分過剰などが挙げられます。
しかし、腎機能障害の原疾患や注意すべき危険因子は患者さんによってそれぞれ異なりますので、患者さんごとの個別の対応が必要です。
最近、腎臓の糸球体にかかる圧力を下げることで腎臓を長持ちさせる効果のある薬剤も開発され、早期であれば腎機能障害の進行をかなり遅らせることができるようになってきています。
定期健診で腎機能障害といわれたら、必ずかかりつけ医の先生へご相談ください。

2023年12月13日

田中 健一
福島県立医科大学 腎臓高血圧内科学講座 准教授

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