脂質異常症とは(図1)
血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を、脂質異常症といいます。脂質異常症は、以前高脂血症と言われていましたが、脂質が低い場合も問題となることから脂質異常症と呼ぶことになりました※1。
脂質は、コレステロールと脂肪酸に分けられます。コレステロールと脂肪酸は血液に溶けないので、水に溶けやすいタンパク質と一緒に粒子(つぶ)になって血液の中を流れています※2。コレステロールと脂肪酸の粒子は、肝臓から血液中に大きいサイズの粒子(VLDL)で出てきます。この粒子のなかの脂肪酸はインスリンの働きで、肝臓や筋肉に取り込まれ、エネルギーとして使われます。
脂肪酸が減った粒子は次第に小さくなり、LDLというサイズの粒子になります。LDL粒子は、細胞表面にあるLDLの受容体※3に結合して細胞に入り、細胞の材料やホルモンの材料になります。LDLにはコレステロールが多く含まれるので、LDLコレステロールとも呼ばれます。
肥満になると脂肪酸を肝臓や筋肉に取り込むインスリンの作用が落ちるため、脂肪酸はいつまでも血液中に残ります。脂肪酸は3つ集まると中性脂肪と呼ばれ、これが増えた状態が高中性脂肪血症です。高中性脂肪血症になると(コレステロールを肝臓に戻す働きのある)善玉HDLコレステロールも低下します(低HDLコレステロール血症)。
高LDLコレステロール血症は、牛乳や卵や乳製品(チーズ、ヨーグルト)、肉などに含まれるコレステロールを習慣的に摂って起こる場合もありますが、多くの場合、LDLを肝臓に摂り込む受容体の働きが(体質的に)落ちるために起こります。このため肥満はなくても増えることが多いです。
図1:脂質の種類と脂質異常症
参考文献等
1 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版、日本動脈硬化学会、東京
2 リポ蛋白とよぶ。
3 LDLコレステロールが結合するタンパク質のこと。
脂質異常症の合併症
脂質異常症があるだけでは症状がありません。しかしLDLコレステロールが血液の中に増加した状態が数年から10~20年以上続くと次第にLDLコレステロールは血管の壁に付着するようにたまっていきます。これを血管プラーク(固まり)と呼びます。プラークがたまった血管は、次第に固くなるため動脈硬化症とも呼ばれます。
最初は症状を起こさない血管プラークでも、次第に大きくなり血液の循環を妨げるようになると、狭心症と呼ばれる心臓病やめまいなど脳虚血発作を起こします。さらに高血圧で血管が破れると、脳梗塞、心筋梗塞などの動脈硬化性心臓血管病を起こします。
脂質異常症の予防と治療
脂質異常症は最初症状がありませんが、長く続くと動脈硬化症や動脈硬化性心臓血管病を起こすため、予防や治療が必要です。従って、脂質異常症の予防や治療は、動脈硬化症の危険因子を減らす治療と並行して行います。動脈硬化症の危険因子には、修正可能なものと修正できないのもの(加齢、閉経、男性)があります(図2)。
図2:血管プラークと動脈硬化性心臓血管病
修正可能な危険因子には、境界型・糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満・メタボ、喫煙、運動不足があげられます。
修正可能な危険因子を減らすには、肥満症やメタボがある場合と、肥満症やメタボがない非肥満・やせにわけて考えることがこつです(図3)。
肥満症やメタボでは、高中性脂肪血症や低HDLコレステロール血症が起こりやすいので、減量が有効です。減量は現在の体重からまず3%減らすことが有効です(肥満症コラムを参照)。カロリー制限に加えて、魚•大豆摂取、定期的な運動、減塩、野菜摂取、節酒が、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症の改善に有効です。
一方、非肥満・やせの方で起こる高LDLコレステロール血症では減量は有効ではありません。お薬を飲む必要があることが多いのでかかりつけ医の先生と相談してください。医師に勧められた薬を飲むかどうか決めるときのこつは、①症状のありなしは関係ない、②薬を続ければ心筋梗塞や脳梗塞が減る可能性があるか確認する(個人で異なります)、③動脈硬化症は数年から10~20年で進行するので、薬は続けないと効果が上がらない、などです。
図3:脂質異常症の予防と治療~動脈硬化性心臓血管病の予防と治療~
福島県県民健康調査「健康診査」の結果紹介
県民健康調査「健康診査」結果まとめ(平成23年度~令和元年度)の結果では、全体的には、肥満の割合は減少せず、高血圧、糖異常および脂質異常は継続して増加しており、循環器疾患発症のリスクが高い状態が継続しています※4。
図:脂質異常の結果※4
参考文献等
4 県民健康調査「健康診査」対象市町村の7年間の推移(全体版) 第41回検討委員会資料3-1 県民健康調査「健康診査」結果まとめ(平成23年度~令和元年度)
2023年5月24日
島袋 充生
福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター 健康診査・健康増進室 室長
糖尿病内分泌代謝内科学講座 主任教授
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